福井県北部を走るえちぜん鉄道は、日本海の三国港に向かって福井平野を縦貫する三国芦原線と、九頭竜川に沿って勝山へと向かう勝山永平寺線の二つの路線から成っており、一両または二両連結の小さな電車に揺られながら、田舎ならではののんびりした旅を楽しむことができる。

今回の目的地である静かなる銀世界は、九頭竜川沿いを走る勝山永平寺線の終点に位置しているが、その終点の名称は勝山駅。いやいや、ここは「恐竜博物館」という福井を代表する観光スポットがある場所。相互タクシーの創業者・多田清氏が建立した「越前大仏」や「勝山城博物館」もあり、思いっきり観光地なのでは? と訪れる前から内心心配になる。

Katsuyama Station in Fukui

というのも、そもそも静かなる銀世界というのは結果論であって、本来の目的地は「平泉寺白山神社」。石川県の旧加賀国にある一宮「白山比咩神社(こちらの記事を参照)」がとても素晴らしかっただけに、この泰澄によって開かれた白山信仰の、越前国禅定道の起点となるこちらの場所も、この目で見ておきたかったのだ。

つまりは、今回の旅にエンターテインメント的要素は求めていない。福井駅から勝山駅まではおよそ1時間、勝山駅からここ平泉寺白山神社まではバスで15分の距離だけど、私はあえてこのバスの道のり分を歩いて向かうことにした。平泉寺白山神社さえ見られればそれでよい。それが目的で、他には何も求めていなかったのだから。

Snowscape in Katsuyama, Fukui

ところがだ。このえちぜん鉄道「勝山永平寺線」のなんと素晴らしいこと! 越前竹原駅を過ぎたあたりから、進行方向左手に九頭竜川が見えてきて、ここから終点一つ手前の比島駅までずーっと感動の連続なのである。特に素晴らしいのが、霊峰白山を望むことができる小舟渡駅から発坂駅までのあいだで、私が訪れた季節は手前の山にまだ雪が積もっておらず、後ろの白山だけは白く染まっていて、まるで移動する借景かの如く素晴らしかった。

どのくらい素晴らしいかって、この鉄道に明日もう一度乗車して、今度は小舟渡駅あたりで降りてみたいと思うほどに、この二つの山からなる雪景色のコントラストは美しかったのだ。山の手前に広がる田園風景と、九頭竜川の組み合わせも日本の原風景を見ているようで、夏にはまた冬とは異なる新緑の光景が待っているかと思うと、この鉄道に幾度となく乗車して、四季折々の美しさを味わいたくなる。

Snowscape in Katsuyama, Fukui
Oshozu in Katsuyama, Fukui

さらに、勝山駅から歩いてすぐの場所には九頭竜川にかかる大きな橋があり、ここから見える山の景色がまた絶景で、歩いて行くことを選んだ自分を褒めてあげたいと思った。なぜなら、勝山駅から平泉寺白山神社までは徒歩で片道1時間以上かかる。最初はこの神社こそが目的だったので、少しでも修験者の気持ちに近づけたくて、この寒さのなか歩いて行くことを選んだのだが、この橋から見える景色で一気に勝山という町を好きになった。

だから歩いて行くことに変わりはないが、せめて平泉寺白山神社までの道中にあるスポットくらい寄り道してもいいかなという気持ちに変わったのだ。というわけで、この絶景が眺められる勝山橋を過ぎて左に入ると、河岸段丘の地形からなる区域があり、その中に七里壁下から湧き出る大清水(伏流水)が残されている。昔はここから流れる水路を使って、野菜を冷やすなど天然の冷蔵庫としても活用していたそうだ。

Spinning mill in Katsuyama, Fukui
Ghost town in Katsuyama, Fukui

また、ここから国道157号線へと向かう道の途中には紡績工場が立ち並び、朝ドラにでも出てきそうな景色が広がっているが、この雰囲気の演出に一役買っているのが、工場の背後にある白く染まった雪山と、前日に降り積もった雪が今も残る空き地の存在であろう。

その後に立ち寄った越前大仏についてはここで詳しく紹介しないが、前述した実業家の故・多田清氏が、1987年に社会貢献の一環で私財を投じて建立し、2002年に臨済宗・妙心寺派の寺院になったことだけ伝えておこう。今はシャッター通りとなってしまった土産物店街を含めて観光目的でつくられたスポットなので、ちょっとした映画のセット感があることは否めないが、それはそれでゴーストタウンのような雰囲気を楽しむことができる。

Snowscape in Katsuyama, Fukui
Snowscape in Katsuyama, Fukui

ここから本来の目的地、平泉寺白山神社へと続く旧参道の入り口まではのどかな田園風景が広がっているが、ここでも、冬の物寂しさを一気に白銀の世界へと変えてくれる雪の力をまざまざと見せつけられる。雲の切れ間から差し込む太陽の光がまた幻想的で、遠くに見える勝山城博物館の天守風建築物が、少しだけ本物のお城に見えてくる。⋯⋯少しだけ。

ようやく旧参道の入り口に到着したものの、前日までに降り積もった雪の影響でちょっと通り抜けるのが難しそうだ。試しに200メートルほど歩いてみたが、杉木立の中を進むにつれて足がズボッと埋まっていく。雪の深さはそこまでではないが、この先の距離を考えると少し危険を感じるので、今回は残念だが県道を歩いて向かうことにした。

Heisenji Hakusan Shrine in Katsuyama, Fukui
Heisenji Hakusan Shrine in Katsuyama, Fukui

平泉寺白山神社が、泰澄によって開かれた白山信仰の越前禅定道の起点であることは先に記したが、現在に至るまでのおよそ1,200年もの間には、たくさんの歴史が刻まれている。なかでも、1574年の一向一揆によって全山焼失する前の最盛期には、48社36堂、そして6,000坊もの院坊が建ち並ぶ、北陸有数の宗教都市として栄えていたというのだから驚きだ。しかも、僧兵に関しては8,000人以上も抱えていたという。

比叡山延暦寺の末寺となった平安時代から、明治時代の神仏分離令によって寺号を捨てるまで、天台宗の有力な寺院として知られていた平泉寺白山神社。境内にある御手洗池には、平泉寺の由来にもなった泉が今も湧き出ており、泰澄が植えたとされる御神木もかわらず健在である。そして、雪解けとともに春をむかえ、梅雨が明けるころには、敷地一面、苔に覆われた美しい世界が出現する。この時期にもう一度、この場に来られることを今から楽しみにしている。