日本と欧州を行き来しながらさまざまな土地で暮らしていると、数日の旅行では見逃してしまうような、あらゆる出来事に遭遇することがある。昨年の晩秋から初冬にかけて、ひと月ほど滞在していた金沢では、この土地ならではの二つの現象を体験することになった。

一つは金沢城公園にやってくるカラスの大群。こちらは、旅行で訪れた人の中にも遭遇した人は多いのではないだろうか。金沢城公園の周辺は木々が多く、日中に関してはとても気持ちのよいエリア。観光スポットとしても名高い兼六園(こちらの記事を参照)だけでなく、本多の森や広坂緑地、卯辰山公園など、あらゆる場所に緑が存在している。

たくさんの植物が呼吸するおかげで空気が澄み渡っているので、それはそれは気持ちのよい散歩ができるのだけど、太陽が西に傾く時間帯が近づくにつれて、どことなく黒い気配を纏いながら、どこからともなく忍び寄ってくるあの感じ⋯⋯。しかも鳴き声とともに大群で! これはなかなか奇異な現象である。街から離れた自然の中でならそう驚くことではないけれど、金沢城公園の周辺は緑が多いとはいえ繁華街。だから危惧するのである。

滞在していたアパートメントの部屋が、金沢城公園からほど近い上階に位置していて、ほとんど遮るものがない環境だったので、最初はこの大群を部屋で仕事をしているときに知ることになったのだけど、バルコニーの窓を目掛けて突進してくるような勢いの日もあって、もちろん結果外れてはくれるのだけど、なにせ集団でこちらに向かって飛んでくるのだから気が気でない。仕事に対する集中力などすぐに途切れてしまい、カラスの観察に徹することになる。

Crows in Kanazawa Castle Park

ねぐらとなっている金沢城公園の周辺では、もう何年も前からカラスにゴミを漁られる被害が問題となっているようで、金沢市もこの件を少しでも軽減できるよう対策を取ってはいるようだが、夕方になると周辺の電線にもカラスが集まってくるため、糞を落とされぬよう注意して歩かなくてはならない。この時間帯に帰宅する人たちは、毎日のように頭上に気を配りながら通行しているのかと思うと、ここの環境が本当に素晴らしいだけにもったいないと、日々過ごしながら考えていた。

この大きな問題は、世界的な目標となっているサステナブルの観点からはどう対処すればよいのだろう。カラスという厄介な生き物と人間の共存。カラスは鳥獣保護法で守られているのでそう容易く処分することはできないし、かといって対処しないことにはどんどん増えてしまう。そのため金沢市では、自然の生態系を壊さぬよう考慮した上で、毎年増えた分のカラスを駆除している。カラスネットの改良も行われているので、エサとなる生ゴミの量を減らすこと、ゴミ出しの徹底した管理、テグスの設置しか今のところ方法はないのだ。

Sky in Kanazawa, Ishikawa

そして、もう一つの金沢ならではの現象が冬の雷である。一般的に雷といえば、上昇気流に伴って発生する夏の雷を思い浮かべるが、ここ金沢が所在する石川県を中心に、日本海沿岸に位置する地域ではどうやら例外のようである。雷の発生率でみると北陸四県は極めて高く、なかでも金沢市は群を抜いている。しかも寒冷前線に沿って発生する冬の雷は、世界的にみてもそう体験できるものではないようで、日本海沿岸以外だとノルウェーの西岸や、北米の五大湖東岸のみという極めて珍しい現象なのだという。

12月も半ばに差し掛かる頃になると、金沢の上空にしょっちゅう発生する冬の雷。なんの前触れもなくいきなりバーンとやってきて、ひょうやあられが降ってくるものだから、最初はこれらも異常気象なのかと悠長に構え、バルコニーの窓からコロコロと部屋に入ってくる氷の粒をバルコニーに投げ返すという、雪合戦ならぬ一人あられ合戦を楽しんでいたのだけど、あまりに毎日のように昼夜問わずこの現象が発生するので、あれ? これは一体⋯⋯と、さすがに疑問を抱くようになった。

Townscape in Kanazawa, Ishikawa

そこである晩、日本酒を嗜みながら寿司屋でつまんでいると、居合わせた常連さんと話す機会が巡ってきたので、ここぞとばかりにこの不思議な現象について尋ねてみた。すると、この雷は北陸ならではの現象とおっしゃるではないか! しかも雷が落ちたときの威力は半端ないそうで、その威力たるや夏の雷の何倍にもあたるのだとか。そして、その常連さんいわく、この雷の怖さに耐えかねて引っ越す人もいるのだとか⋯⋯。

まさかの答えに、帰宅早々パソコンを開いて調べてみると、冬の雷は落ちる確率こそ少ないものの、その落ちたときの一発の威力は夏の雷のなんと100倍! それ以上のものもあると書かれている。夏季雷のように、遠くからゴロゴロと発生していることを教えてくれないので、落雷位置を予測することもできず、さらには雷雲の発生する位置も地上に近いのだとか。私はそれ以来、あられ合戦なんて楽しんでいる場合ではないと、発生する雷に十分注意を払うようになった次第である。⋯⋯いやはや。

Crows in Kanazawa Castle Park

そんなわけでここ金沢では、この土地ならではの二つの自然現象を体験することになった。特に冬の雷については、この時期に北陸を訪れた上で、数回は遭遇しないと疑問に感じることがなかったと思うので、とても貴重な体験をさせてもらった。日本の国土は小さいようで大きいので、今後もこの引っ越し生活を続けている限り、たくさんの発見があることだろう。

金沢のカラス問題については、周辺の住民にとって切実な問題ではあるけれど、それでもこの金沢城公園の近くに住めることは最高である。街の中心にありながら、こんなにも気持ちのよい場所はそうあるものではないし、この気の流れの良さは、皇居周辺と相通ずるところがある。金沢では次回もこの周辺に滞在して、素晴らしい日々が送れることを心から楽しみにしている。