しょっちゅうウチにやってきては、
植物の種やら果物やら、こんにゃくやら、
これ綺麗だからこれ美味しいからと、四国の特産品をいろいろ持ってきてくれるおじさんがいる

親戚でも何でもないそのおじさんが、わたしにもう一度会いたがっていることは話に聞いていたが、

その圧の強さにちょっぴり引き気味だったわたしは、
話が長くなるのを避けるために毎度、部屋で息を潜めながら居留守を使っていた

ところが今日、犬の散歩に出かけた直後に一台の車が角を曲がってきて、わたしと犬のサイドに止まった
車の窓がすーっと開くものだから誰かと思って身構えたらそのおじさんで、「帰ってきてたんだね! 今日はね、ほら、前に話したみかん、持ってきたよー」

とまあ、待ってましたと言わんばかりの勢いで車から降りてきて、
正直、わたしは一瞬、誰だか思い出せず、それにみかんとはいったい何のことやら⋯⋯

このおじさんとはこれまでに一度しか会ったことがないのに、
わたしの顔も半年以上前に小一時間ほど話した会話の内容もバッチリ覚えられていて、
その場で直接、真穴みかんが詰まったダンボールを手渡したいというものだからさて困った

「いや、犬が一緒だからそのダンボールは持てないので家まで運んでください」とお願いしたら、しょぼんとした顔で「今、あなたに直接渡したいのに」と言われてしまう

しかし、犬がいながらこの重そうなダンボールを抱えて歩くのは到底無理であり、「でも犬が一緒だし、犬が引き返すのは嫌だって言ってるから」と二、三度、同じ会話を繰り返してようやく納得してもらう

別れ際には「じゃあ、お散歩いってらっしゃーい」とこれまた圧の強い笑顔で見送られ、二度も大きく手を振られる始末⋯⋯
わたしはなぜ、こんなにもこのおじさんに好かれているのだろうと、不思議で笑いが込み上げてきた

しかしである
犬の散歩から帰ってきても、おじさんはみかんを届けに来ていないと誰しもが言う

はて、どうしたものかと思いながらも、
裏口から入ったのでとりあえず表玄関に靴を戻しにいったら、
ドアの向こうにうっすらと存在感を放つあのダンボール

なんとおじさんは、ピンポンも鳴らさずにそっと玄関先にダンボールを置いて、まるでサンタクロースがやってきたかのように挨拶もせずに帰っていったのである

上品な赤いセーターを着ていたのはそういうことだったのかと妙に納得したわたしは、おいしい真穴みかんを早速、犬といただいたのだった