ナヴォーナ広場周辺を歩いていたら、
スリに出くわした

すでに誰かが被害にあった後のようで
その人が気づいているかどうかはわからない

スリは空になったリュックを手に持ち
ギラギラした目で、笑みを浮かべながら
その場をうろついていた

その一部始終を知る人たちが
“なんてこった”という目でスリを見ている

たくさんの視線を浴びて、
少し気まずそうな顔を浮かべながらも、やはり口元は笑っていて
目のギラつきもいまだ収まらない

仲間のいるアジトでリュックの中身を抜いて
戻ってきたところなのかもしれない

そのファスナーの開いた黒いリュックは
もぬけの殻であった

わたしはその場から離れて、先の道を曲がった

すると、ゴミ袋から器用に抜いたリングのままのドーナツを
カモメが嬉しそうに
でも警戒しながら転がしていた