その昔見た映画『ベニスに死す』
ヴィスコンティの傑作である
あの美しい少年は
画面越しに見ても惹かれるものがあった
あの感覚を人に感じることは
そうあるものではない
新型コロナウイルスの世界がまだ終わらぬ今
疫病に侵されて命を落とす主人公のこの物語は
ヴェネツィアカーニバルが途中で打ち切りになるほどの猛威でここイタリアを襲った2020年を思い出す
道徳か背徳か
最期の瞬間を
あの惹かれに惹かれた少年の姿を自分の感覚の中に落とし込み
真に芸術家として死せるならば
彼は永遠の生を得ることになるだろう
美しいものは美しい
その生まれながらにある世界に気づいたとき
人はもしかすると何かを悟る
それは時に美しさを超えるとも言えるだろう
今、この映画の舞台であるベニスにいながら
この街にもその刹那的な何かを感じている
少年の絶対を超える美に出会ってしまったからこそ
主人公が死を間近に迎えようとする今
生への執着を感じる
しかしまた、
その悲劇的な感情こそが、その感情を持って我が人生を終えられるということが
芸術家として真に冥利に尽きるとも言えるだろう
死んで生まれ変わるのではなく
死んで終わる
命尽きるそのときにおいてもまた
人間のにわかには信じがたい渇欲なるものが
この街には溢れている