午前中に雷雨があった
少なくともひと月ぶりの、あの日以来の雨である
鼻に纏わりつく、忘れかけていたこの匂い
葉や土だけではない、外で呼吸するすべての生き物の匂いがする
石畳の隙間に入り込んだ
カラカラに干からびたいくつもの物質が
一気に呼吸したような
決していい匂いとは言えない
生きてるのか死んでるのかもわからない生き物の匂い
今暮らしている場所はとても歴史ある場所で
何百年という月日が、この石たちに刻まれている
当時の物質がほんのひとかけら、まだ残っているかもしれなくて
だからこその、このペトリコール
城壁や土壌に閉じ込められた何百年もの歳月が
雨を察知して何かを思い出すかのように飛び出してきて
その記憶を放出する
そこには自然だけでない
いくつもの人間の記憶も埋め込まれているのだ
地面から立ち上る雨の匂い
その歴史こそ、ペトリコール
ずっと落ち着かなくて彷徨い続けたここ数日の足跡も
この歴史ある地面へと刻まれていく
雨上がりの道をわたしは歩く
強い日差しで一気に乾いてしまった、でもまだ雨の匂いだけは残るこの道を
わたしは何かを取り戻すだろう
このペトリコールによって、きっと何かを